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Channel: シネマ日記
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リリーのすべて

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1926年のデンマーク。画家のアイナーヴェイナーエディレッドメインは同じく画家である妻ゲルダアリシアヴィカンダーと幸せな夫婦生活を送っているかのように見えていたのだが、妻の絵のモデルで友人のバレリーナ・ウラアンバーハードが踊りの練習でモデルが出来ずアイナーがストッキングを履いてモデルの代わりをしてやったのを大きなきっかけとしてアイナーの中の「リリー」が目を覚まし始める。

大きなきっかけと書いたのは実はそれ以前からアイナーが押し殺していた「リリー」という女性はずっとずっとアイナーの中に存在していたのであり、幼少期にも「リリー」であった瞬間があり親友のハンスにキスをされたというエピソードも語られたりしていたし、ウラの舞台衣装に普通より強い興味を感じたりしているアイナーの姿が映し出されていた。

リリーが目を覚まし始めてから、もうひとつものすごく大きなきっかけが訪れる。パーティ嫌いのアイナーに代わって「リリー」としてパーティに一緒に行こうと妻ゲルダが誘うのだ。ゲルダにとってはただの遊び半分の軽い気持ちだったのだろう。でもアイナーにとっては初めて「リリー」として人前に出るという晴れの日となった。夫婦2人でアイナーの女装の準備をし、仕草なども女性らしく見えるようにゲルダがアイナーに教えたりして本当にただふざけているだけ、ゲルダにとってはそのはずだった。

しかしそのパーティでリリーはヘンリクベンウィショーという男性に声をかけられキスまでしてしまう。それを目撃したゲルダは大きなショックを受ける。その日からアイナーはリリーを封印しまたアイナーとして生活しようと努力するのだが、一度開花したリリーを押さえつけることはもう誰にもできなかった。

ベンウィショーもエディレッドメインに負けず劣らず女装が似合う人なので、パーティに彼が現れたときは彼と女装仲間(いや女装対決!?)になるのかと思ったけどそれはワタクシの勝手な誤解でした。

アイナーはリリーでいることを望み、ゲルダは当然アイナーでいてもらうことを望んでいた。両方とも辛いな。。。ゲルダがアイナーの親友で昔「リリー」にキスをしたハンスマティアススーナールツに魅かれるのも仕方ないと思う。っていうか、、、ハンスめちゃくちゃカッコいいしー。そりゃ夫婦で惚れるのも分かるわ。

ゲルダがハンスに魅かれるのも分かるとは書きましたがこの2人の恋心はかすかに描かれるだけでまだそれが切なくもありました。

リリーのほうはもうどんなにゲルダが頼んでもアイナーだった時代には戻れず苦悩し続けるのですがついに性転換手術をしてくれるというヴァルネクロス教授セバスチャンコッホに出会い手術を受けることに。リリーは世界で初めて性転換手術を受ける人になるのです。

この時のリリーにはもう何の迷いもないんだよね。自分の中のリリーという本当の性をずっとずっと押し殺してきた彼女にとって、このまま男性の体で生き続けるなんてもう拷問に等しかったんだろうな。それにしてもゲルダの心境たるや想像を超えた辛さだろうなと思う。自分が相思相愛だと思ってきた男性が実は心が女性で、皮肉なことに図らずもそれに火をつけてしまったのが他ならぬ自分自身で、そしてその辛さに浸る間もなくその相手からは全面的なサポートを求められている。そしてゲルダはリリーを支える道を選ぶんですよね。切ない。もうほんとハンスとくっついちゃいな!って思いました。

一回目の男性器切除手術を終えてリリーが「神様は私を女に作ったの。でも間違えた体を教授が治してくれる」と言っていたのが印象的でした。そう、彼女は生まれながらにして“女性”だったのですよね。ただ違う器の中に入って生まれてきてしまっただけで。

二回目の女性器形成手術の前日リリーが病院のベッドで独り泣き崩れるシーンがありました。それまでともすればちょっとリリーわがままなんじゃないの?もうちょっとゲルダの気持ちも考えてあげれば?と思うような部分もあったのですが、あの前日のリリーの涙がそのすべてを浄化するように思えました。もちろん未知の手術への恐怖や不安も混じっていたでしょうけれど、やはりこんな体に生まれさえしなければこんなふうに苦しむこともなかったこと、こんなふうにゲルダを傷つける必要もなかったこと、そんな気持ちが一気に溢れていたシーンだと思いました。

ネタバレになりますが、残念なことにリリーは2度目の手術のあとすぐに亡くなってしまいます。とても悲しい結末となってしまったのですが、リリーが女性として死ぬことができたというのはそれだけでも幸せだったのかもしれません。

ゲルダがたくさん描いていたリリーの絵。実物を見てみたいなぁ。


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