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Channel: シネマ日記
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アメリカンスナイパー

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以前から見に行くと決めていた作品です。クリントイーストウッド監督がブラッドリークーパーを主演にイラク戦争でのアメリカ兵最高のスナイパーについて描く。

ブラッドリークーパーは原作の映画化権を自分で買ったというだけあって、主人公に合わせて体重を相当増やし、筋肉もりもりでむちむちのいかにもアメリカの軍人といった風貌になっていて、いつものハンサムでセクシーな彼はどこへやらといった感じで彼の気合を感じさせた。

ネイビーシールズの隊員クリスカイル(クーパー)はスナイパーとしてアメリカ史上最高の160人という人数を狙撃し味方からは「伝説」と呼ばれ、敵からは「悪魔」と恐れられて懸賞金もかけられた。

彼は典型的な(とワタクシがイメージする)テキサスの家庭で育てられる。敬虔なキリスト教徒で父親が猟に連れて行き息子に銃の扱いを教え、羊をいじめる狼を徹底的にやっつける番犬たれと教えを受ける。彼がのちに妻となる女性タヤシエナミラーに出会い、どうしてシールズに入ったの?と聞かれたとき「世界で最も偉大な国アメリカを守るため」と答える。彼は100パーセントそれを信じている人なのだ。

クリスが戦場に向かうまでの彼の半生が前半にきちんと時間を取って描かれてあり、彼の人となりを知ることができるようになっていて好感が持てた。彼が狙撃をするシーンの緊張感はふんだんにあったが、戦場のシーンは少々長すぎるかなという気がした。最近戦場シーンがリアルに撮れるようになってきたせいなのかどうかは分からないが、戦場シーンが長くなる傾向を感じます。

4回の派兵の合間に妻と子供の元に帰ってはくるクリスですが、ポスターのコピーにあるように「心は戦場においたまま」でした。戦場で命をかけて戦っている仲間たちのことを思うと息子の試合の結果なんてどうだっていいし、それを重大ごとのように話す妻にイライラしてしまう。このころ帰還兵たちのPTSDというのはどれくらい理解されていたのかな。まだいまほどではなかったのかな。

4回の派兵を終えて、除隊したクリスは他のPTSDに苦しむ退役軍人たちと対話することで自らの心の傷を癒していったようなんですが、ちょっとその辺りの描写が少なくて物足りなかった気がします。カウンセラーに一度会い、退役軍人たちを紹介されて、彼らと話すシーンが2つくらい流れ、その後すぐに奥さんが「元のあなたに戻ってくれて嬉しいわ」と言うだけで終わってしまったので、クリス本人の心の中までは詳しく語られていなかった気がします。

結局彼はあの戦争に行っても「世界で最も偉大な国アメリカを守った」自分というものには満足していたのだろうなと感じました。イーストウッド監督は共和党ですが、イラク戦争には反対の立場を取っているし、これが戦争を賛美した作品とは思わないのだけど、クリス自身にとっては「狼」から「羊」を守った「番犬」の役割を果たせたということが一番大事だったのかなぁという気がしました。戦場に行っても戦争が無意味だとか、敵にも事情も家族もあるんだとか、そんなことを考えるようになったわけではなかったんだなぁと。いや、実際にクリスがそう思わなかったかどうか分かりませんが少なくともこの作品にはそういうふうに描かれていたと感じました。言い方は難しいですが、彼のような人は戦場という場所に合っていたのでしょう。

彼の弟や家族への手紙に弱気なことを書いていた仲間のグライムスマークリーはクリスに比べれば、戦場不適合者と言いますか、クリスは弟に「お前を誇りに思う」って言っていたけど、それは「羊」にしてはよくやった的な意味だったんじゃないかなぁと思えたし、グライムスは「あんな手紙を書くから死んじまったんだ」と言っていて、それはグライムスを馬鹿にしたとかそういうのではなくて、あんな弱気でいるから殺されるハメになるんだという悔しさだったんだろうけど、その辺は強者であるクリスには理解できなかった部分なのではないかなと感じた。

とは言え、そんな彼でさえPTSDに苦しむのだから、やはり戦場の狂気というものは異常であるとしか言いようがない。

シエナミラーが黒髪に染めていて誰だか分かりませんでした。申し訳ないのだけど、彼女にはちゃらちゃらしたモデルっていうイメージを持っていたので、ちゃんと演技できるんだぁと感心しました。そう言えばこないだ「フォックスキャッチャー」にも出てました。

イーストウッドっぽい静かな演出ですが、132分という長さは感じませんでした。それにしても彼はなぜ同じ退役軍人に殺されてしまったのだろう。犯人はPTSDによる心神喪失を訴えているようですが、実際の「理由」というものを知りたいです。


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