1983年に製作されたものの、題材である戸塚ヨットスクールの死亡者を出した事件で逮捕者が出たために上映中止になっていた作品。「平成ジレンマ」を見たときにこういう作品があるというのを知って一度は見ておきたいと思っていた作品だった。今回どういう経緯で公開に至ったのか知らないけど、劇場公開になったので見に行きました。
映画を製作していた時点ですでに死亡者は出ていたということだったのだけど、逮捕には至っていなかったし、制作側としては世間の誤解を解きたいという思いで作られたものだったのかな。この作品を見たあとにちょっとリサーチしてみて、このスクールが最初は「情緒障害児を直す施設」ということでマスコミには好意的に紹介されていたという事実を知って驚いた。その後死亡者が出て一気に袋叩きっていうのはマスコミのいつものパターンってやつでスクールのことは擁護しないけど、このマスコミのやり方にもちょっとうんざりはする。
映画そのものはまぁスクールの暴力的な面は一切隠さず、それを知ってもらうためのものという感じはした。彼らはこれが正しいと心の底から信じているわけだから隠す必要なんて全然ないってわけだろう。物語の軸としては冒頭で家庭内暴力を振るっている俊平辻野幸一という子を家から無理やり連れだしてから、スクールに連れてきてボコボコにして坊主にして従わせる。というシークエンスから彼がスクールで立ち直っていく様子を爽やかに(!)描く青春物語にできあがっていた。1983年製作だから演技の臭さとか、BGMのわざとらしさとかにはかなり目をつぶって見ないといけない。
驚いたのはスタッフの中に看護師山本みどりがいたことだった。どこまで殴っても大丈夫かを知るためか?と思ったけどまぁそういうわけでもないらしいが。彼女は看護師でありながら、戸塚校長伊東四朗の暴力を肯定しているところがすごく妙な感じがした。彼女も当然自分たちは正しいことをしていると信じているわけで、どこか戸塚氏の信者みたいな雰囲気を漂わせていた。スクール内で体調の悪い子が出て車で高速を飛ばして料金所もぶっちぎって走るシーンがあるんだけど、なんで救急車呼ばんのかね?なんか救急車呼んだら都合悪い事でもあるんかい?という気がしたけど真相は分からない。
「映画」そのものレビューとしては昔の大映テレビの青春ものみたいであんまり書くことがないんですけど、世の中には色んな親がいるし、色んな子供がいる。死人が出ていてもここに頼りたいという親もいれば、どうしようもないほど暴力的な子供もいる。ワタクシはこのスクールを肯定しないけど、結局やっぱり子供を入れたいという人はいるんだよなぁ。なんか宗教っぽいし、信仰の自由という感じで考えればいいのか…ここのやり方が合っている子もいるにはいでしょう。だからこそ、ここに来て良かったと思う人もいるのでしょう。でも、一人一人の適性は考えずに全部このやり方でいいんだというところも宗教と似ているなぁと思います。
この作品の広告のコピーが「暴力か!体罰か!学級崩壊、ひきこもり、無差別殺人、現代日本がこの映画に見出すものは何だ!!」なんですが、まぁいかにも「イマドキの若者は…」とか簡単に発言しそうな人が考えたコピーって感じで。学級崩壊とひきこもりと無差別殺人をいっしょくたにして問題視している点がいかにも安易な感じがします。無差別殺人って別に急増してもいませんし、若者の犯罪だって増えていない。ひきこもりとひとくちに言っても原因は個々で違うだろうし。恐ろしい社会問題を並べ立てて恐怖を煽りそこにスクールの存在を救世主的にぽんと持って来ようという意図が見え透いているような気がして鼻についた。
「映画」もいいけど「犬」も好き。という方はこちらもヨロシクです。我が家の犬日記「トラが3びき。+ぶち。」